高律クリスマスのお話。

 ピンポン。ピンポン。ガンガン。ピンポーン!ピンポーン!ガンガン!

 12月25日早朝。
 ピンポンダッシュならぬピンポン連打がやってきた。いたずらっ子の仕業ではない。子供だったらどれだけ良かったか……。
「朝から近所迷惑なんでやめてください……。高野さん」
 どんよりと疲れきった俺は渋々扉を開けた。
「夜よりはましだろ。って言うかお前まだ寝てたのかよ?」
「校了明けからこっち実家の野暮用やらなんやらで忙しかったんですよ!どんだけ寝てようが休みの日なんだからいいでしょうが」
 俺がいつ寝ようが起きようか高野さんには関係ない。何だって呆れたように寝てた事を言われなきゃならないんだ。
「で、朝から何のご用ですか?」
 とりあえずとっと帰って欲しくて俺は自分から切り出した。
「クリスマスプレゼント」
「は?」
「今日クリスマスだろ。プレゼント持ってきたから両手出せ」
 はい?いきなりの高野さんの発言に頭が真っ白になる。
 いや、確かに昨日はクリスマスイブで、ついでに言うと、その、高野さんの誕生日でもあったわけだけど忙しくって俺は何も言えてなくって、いやまあそんな事は横に置くとしてだ。
 高野さんから俺にプレゼント?
「えっと、あの俺高野さんからプレゼント頂けるような事は何も……」
 おそるおそる俺が言うと、高野さんは例の傲岸不遜極まりない表情で言った。
「俺がやるって言ってんだ、四の五の言わずにとっとと両手出せ」
 
 ぼすっ!

 渋々両手を前に突き出すとその上にいきなり重たいモノが乗せられた。
 いや、モノではない。なぜか俺の手の上に高野さんが顔を埋めている。
「あの……高野さん?何ですかこの状況は?」
「プレゼントは俺な」
 手の平に顔を埋めたまま高野さんが言った。
 『プレゼントは俺』っていくら少女漫画の編集とは言えこの人どれだけ恥ずかしい発言してるんだ。俺は真っ赤になったり真っ青になったりして叫んだ。
「全力でお断りします!!」
「返却は一切受け付けませんので悪しからず」
 そう言うと高野さんはニヤリと笑って俺を捕まえた。何だってこの人はこうタチが悪いんだ。


「……っつ!」
「うっ……ぁ……」
 俺達はその日何度目かのうめき声をあげた。
「……」
 高野さんが暗い目をしてこちらを見た。マジで怖い。これはまずい額の青筋の立ち方が尋常でない。
「あ、あの高野さん。俺、自分でやりますから、ほんとにもういいですから」
「うるさい……。ここまできて止められるか」
 やばい目が座ってる。
「って言うかなああ!!小野寺、お前は俺に『不眠不休で働かせてすいませんでした!!』って言わせたくってこんな汚部屋に住んでるのかよ!?」
 部屋の隅でカビにまみれ倍近くに膨れ上がったミカンを前に高野さんが叫んだ。

 
 自称『クリスマスプレゼント』な高野さんは、プレゼント贈呈後直ちに不埒な振る舞いに及ぼうとしたのだが……。
「お前の部屋、マジでひでえことになってるな……」
 俺を強制的に部屋の奥に連れこんでおきながら高野さんは失礼極まりない事を言ってきた。
 まあ、失礼な発言ではあるが汚い事は事実なので俺も目をそらしつつ半笑いを浮かべるしかなかった。前回、部屋に来られたより汚さが進化しているかもしれない。
「あ、明るいとこで見たらあれですけど、前に来た時と同じくらいですから」
 とりあえず言い訳をしてみたが、もちろん一蹴された。
「アホか。前と同じじゃ意味ねえだろうが、掃除するって言ってなかったか?」
「一回はちゃんとしました!そこから後にまたこんな風になったんですよ」
「自慢する事じゃねえだろ。っつーか、このシンク一体いつから触ってないんだよ?」
「あ!!そこは駄目です!」
 シンクには適当に買ってきて食べていた惣菜の空き容器や使用済みの皿が突っ込んであり、俺自身一体いつから触っていないか分からなかったのだ。
「食べ残しとか三角コーナーに溜めとくなよな」
 俺の静止を無視して高野さんが三角コーナーに手をかけた。そして俺達は見てはならない物と対面したのだった。

 最初はコメ粒だと思った。白かったし大きさも同じくらいだったから。それが動くまでは、それが大量にウネウネ動くまでの数秒間はコメ粒だと思えた……。いっそコメ粒であってくれたら良かったのに。
 それは、大量に発生した○ジ虫だった……。

「は、はははははは。生物って元気ですね。どこででも生きてけるんですね。いや、時々ハエとか飛ぶのどこから来てるのかなーとか思ってたんですけど、こういう所で生まれてるんですねえ」
 とりあえず、恐怖の三角コーナーをまとめてゴミ箱に突っ込んだ俺は引きつった笑いを浮かべつつ言ってみた。高野さんは無言で下を向いたままだ。
「……。掃除だ」
「はい?」
「小野寺!今すぐ大掃除だ!俺が耐えられん!!手伝ってやるから今すぐ開始だ!」
 高野さんの変なスイッチが入ってしまったらしい。
 クリスマスの朝、なぜか俺達はエプロンと手袋をはめ大掃除をする事になっていた。

 我ながら驚くほどゴミが出るわ出るわで驚いた。さっきのミカンだけじゃない。実家から送られてきてそのまま放置してたので芽が出まくったジャガイモ。元の色が最早全く分からないペットボトル。食べかけの栄養補助食品。片方だけの靴下。テレビのリモコンが何故か3個。
 仕事が忙しいのは本当だし、ほとんど寝に帰ってるだけみたいな状況が多いのも事実ではあるのだがちょっと情けなくってヘコんでしまった。

「じゃあこれ下に捨てて来ますんで、高野さんは適当にお茶でも飲んでて下さい」
 何とか掃除を終えた時には45リットルのゴミ袋二つが一杯になっていた。あらためて良くこの部屋で暮らせてたな、俺。
 
 マンションのゴミ集積所にゴミ袋を入れて、俺は大きく伸びをした。
「高野さんにお礼言わなきゃ……だよな」
 あちらが朝っぱらから押しかけて来た上に強制的に始めた大掃除とはいえ、ここまで手伝ってもらったらちゃんと儀礼はつくさなければならないと思う。が、どうも高野さんにお礼を言ったら最後ベッドに連れ込まれる気がしてならない。いや、こんな風に考える俺もどうかしてるけど、でも高野さんの場合は当たりの気がするし、ううー。
 
 グルグルしながら部屋に帰ると、高野さんが奇妙な顔をして座っていた。
「どうかしましたか?」
「いや、これ何かなと思って」
 高野さんが手にしている物を見て俺は絶句した。
「何で!何で勝手に開けてるんですか!?」
「いや、袋に突っ込んであるの見つけたから捨て忘れのゴミかと思って」
「ゴミじゃありませんよ!!!」
 俺は大声で叫んだ。
「ゴミじゃないなら何?」
「それは、その」
 高野さんが持っていたのは、中身がパンパンに詰まったクリスマスプレゼントを入れる為の大きな赤い靴下。
「高野さんの靴のサイズ28だってこの前聞いたじゃないですか、だからその、誕生日のプレゼントにどうかなって思って」
「これの中に靴入ってんの?」
「いえ、靴は実際に履いてみないと合うか分からないんで靴下です」
「でかい靴下の中に、ギュウギュウになるほど靴下詰め込むって……。お前、前々から思ってたんだけど特異なセンスしてるよな」
 いたたまれない俺は顔をあげることも出来ない。
 どうしようかとかなり悩んだのだ。前みたいに実用一点張りのプレゼントと言うのも何だけど、相変わらず俺は高野さんのことあんまり知らないまんまで、じゃあ知ってる事って何だって考えたら「靴のサイズ教えてもらったな」って思ってしまって、靴下屋で気がついたらバカみたいに28サイズの靴下を買いこんでしまってた。
「い、いらないならいいんですよ。靴下なら俺だって履けますから」
「バーカ。お前の足のサイズ26.5だろうが、すべって転ぶのがオチだ」
「大は小を兼ねるから大丈夫ですよ」
「無茶言うな。大体これは全部俺のだからな」
「ま、まだ渡すとか何も言ってないですし!返して下さいよ!」
 そうだ、俺はまだ何も言っていないのだ。両手をだすと以外にも高野さんはあっさり返してくれた。
「じゃあ、ちゃんと何か言って渡して?」
 しまったヤブヘビだった!
 引っ込みがつかなくなった俺は真っ赤になりつつ精一杯顔をしかめて言い放った。
「高野さんおたんじょーびおめでとーございます!これ履いて原稿取りに駆けまわって下さい!」
「作家のとこに原稿取りに走りまわらなきゃならん程でせっぱ詰まりたくねえよバカ」
 高野さんは苦笑しつつ俺からプレゼントを受け取った。
「ありがとな、嬉しい」
 そう言った高野さんはあり得ないくらい優しい顔をしていて、俺はそんな高野さんの顔をまともに見られなかった。そう言われて、俺も嬉しいとかそんなんじゃない。そんなんじゃないはずだ。
「で、クリスマスプレゼントは?」
 何だかいい雰囲気に流れかけた所で変な言葉を聞いた気がする。
「はい?何ですって?」
「いや、これが俺の誕生日プレゼントだろ?ならクリスマスプレゼントは?」
「はぁ!?なに図々しいこと言ってるんですか!クリスマスやお正月が誕生日の子はプレゼントは一括にされるのが常識でしょうが!」
「俺は世間の常識に縛られる気はない」
 何、偉そうに言い切ってるんだこの人は。何だかすごく嫌な予感がする。
「別に何の準備も無いなら、構わん俺が勝手に選ぶから」
 おもむろに手が伸びてきて俺はがっちり捕まえられる。
「クリスマスプレゼントはお前でいいから」
「いえ、俺なんかよりもっと良い物を本日のお礼とあわせて後日差し上げますんでお引き取り願います」
 腕の中でもがく俺を押さえこんで高野さんが言った。
「俺はお前がいいんだ。それに俺はお前のクリスマスプレゼントだしなしっかり堪能してもらうまでは帰る気はないぞ」
「押しかけプレゼントが勝手な事言わないで下さいよ!」
「お互いがプレゼントなんてラブラブだな、俺達」
 綺麗になったベッドに俺を引きずって行きながら高野さんがシレっと言った。
 断じて違う!!断じて俺達はラブラブなんかではない!!
 クリスマスの夜空に俺の心の叫びが消えて行った。

 おしまい

 何かいきなりとち狂ったように高律ですいません・・・・。
最初漫画で考えてたネタなんですが時間やら何やらの都合で文章になりました・・・。
勢いだけで書いております、乱文申し訳ありませぬ。

良く考えたら時系列がメチャクチャでした・・・。東京近辺住んでたら普通に担当さんが
原稿取りに行くかなともあとから気付いたですよ・・・。
フィーリングで読んで下さいです・・・。すいませーん!!!

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